さよならをおしえて

こんにちは、柳さん。
……えへへ、来ちゃいました。どうしても会いたくなっちゃって。柳さんの家って落ち着きますね。和室もあって、お姉さんも綺麗だし、お菓子もらえるし……え、違う?
最近調子はどうですか?何かありました?……あ、そうそう。聞いて下さい、今日面白いことがあったんですよ!
さっき町の中を歩いてたら、切原くんに会ったんです。方向が同じだったから暫く一緒に歩いてたんですけど、切原くんったらよそ見ばっかりしてるせいで側溝にはまっちゃって!あの時の顔を思い出しただけで……ふふ。あ、ごめんなさい。思い出し笑いしちゃった。

私、こうやってたまに神奈川まで来るんですけど……町中でよく立海の人に出会うんですよ。私が行く場所が被るのかな……柳さんなら「お前がクレープ屋へ行く確率、100%」とか言っちゃったりして……あ、似てないからって怒らないで下さいよ。ちゃんと次までに練習してきますから!
そうそう、物まねと言えば――。

……あ、もうこんな時間。
東京からちょっと遠いのがネックですよね。もっとゆっくりしたいのになー。けど、親が心配しちゃうので、今日のところは帰りますね。
それじゃあ、また来ますから。


***


こんにちは、柳さん。
今日も寒かったですね。雪降ってますよ雪!うー、来たばっかりだけど帰るのが億劫だなぁ……。
あ、でも雪遊びは楽しみです。雪だるまとかかまくらとか、冬のロマンですよね。私、一回かまくらの中でお餅焼いてみたいんです。……呆れてますね、柳さん。私には分かりますよ。お見通しです、エスパーですから。もー……柳さんにはお餅分けてあげませんから!

……雪が酷くなってる。冬用のブーツ履いて来ればよかったかなぁ。……見て下さい柳さん、これ。去年柳さんがくれたマフラーですよ。似合ってるでしょう、ふふ。まあ、柳さんがくれたから当たり前なんですけどね。
手袋は自前ですよ。寒くて指先が……。……柳さんの手も冷たかったですね。逆に体温高かったらホッカイロみたいになったのに、残念。

……そうだ、今日は私がお菓子持ってきたんですよ。いつも貰ってばっかりだから、たまには。もちろん手作りです!
お姉さんにもあげたので、柳さんも遠慮せず食べて下さいね。……食べて下さいね!!

見た目はアレですけど、味だけは褒めて貰えたんです。切原くんに。切原くんに一番にどく…食べて貰ったんですよ!…………嫉妬して下さい!
じゃあ、暗くなってきたし……今日は帰らなきゃ。ちゃんと味わって下さいよ。また来ます。


***


こんにちは、柳さん。
今日は何の日か分かりますか?……冬の一大イベント、バレンタインデーですよ。ちゃんとチョコレートも作ってきたんです。
ただの溶かして固めたチョコレートと侮るなかれ。なんとトリュフです!見た目はノープロブレム、ちゃんと自分で味見してあるんです。……実は、つぐみにも手伝って貰ったんですけど。えへへ……。
私のド本命チョコですよ。…頑張ったんですから、食べて下さいね。……柳さんの為に頑張ったんです、去年より。

友チョコってあるじゃないですか。柳さんのとは別に結構たくさん作っちゃったから、友達に配ってたんです。切原くんとも連絡取り合ってて……あ、嫉妬しちゃダメですよ。お友達です、オトモダチ。……どうせしないんでしょ、分かってますよだ。
――それで、今日駅の近くに居るって言うから、チョコを渡してきたんですよ。
そしたら「見た目はちったぁ改善されたのか?」って!ありがとう、よりも先に!酷いと思いません?……柳さんからも何か言ってやって下さいよ。切原くんが私をいじめます。

ホワイトデーにお返しが欲しい訳じゃありませんから、気にしないで下さいね。私が渡したかったんです。
……あ、そうだ。私も立海に通うことになったんですよ。高等部から編入するんです。すっごく苦労したんですよー、いやぁー、本当……つぐみには頭が上がらないなぁ。
って訳で、私も王者立海の仲間入りですよ!褒めて下さい!
……偉いなって、褒めて下さい。いつもみたいに。

あーあ、つれないなあ。けど、その方が柳さんっぽいです。
分かってますから、今度会った時に何か色々期待してますからね!それじゃあ、また来ます。


***


こんにちは、柳さん。
桜が咲いてますね。満開ですよ、今度お花見しませんか?……もちろん、立海の皆さんも一緒にです。私も腕を振るっちゃいますよ!
……こ、これでも大分ましになったんです。つぐみにも教えて貰ったし……あれ?つぐみの笑顔、ひきつってたような……あ。気のせいです気のせい。味は褒めて貰えるんです!

昨日、入学式があったじゃないですか。私、切原くんと同じクラスになったんですよ。いやー、中高一貫で馴染めるか不安だったけど、これで第一関門は難なく突破できそうです。
丸井さんと桑原さんにも会いました。仁王さんと柳生さんにはちらっと。みんな切原くんに会いに来たみたいで、私の姿を見てびっくりしてましたよ。失礼ですね、もう。
けど、幸村さんと真田さんには会えなかったなぁ……柳さんの姿も探したけど、やっぱり見つからなかったし。会いに来てくれたっていいじゃないですか、可愛い彼女が探してるんです……ごめんなさい冗談です。
あーあ、千里眼とかあればいいのに。そうすれば、どこにいたって見つけられるじゃないですか。

何にびっくりしたって、学校の綺麗さです。公立育ちの私にとってはまぶしすぎて……本当にここに居て大丈夫なのかと思いました。
柳さん、ずっとこんな豪華なところで授業受けてたんですね……羨ましい。明日はまだオリエンテーションだけど、早く馴染めるようにしないとなー。
――一人で喋り過ぎですか?えへへ、すみません。つい、柳さんと居ると落ち着くから。

……そうそう。この間、柳さんから教えてもらったポプリ、作ってみたんですよ。そうしたら周りの子に好評で、是非教えて欲しいって!さすが柳さん、そこに痺れて憧れますね!
今も持ってるんですよ、桜の花で作ってみたんです。柳さんの分も作ってみたから、使ってみて下さい。……何だか、懐かしい香りがするんです。柳さんが前に使ってたのと似てるのかも。
それじゃあ、ちょっと早いけど……帰らないと。帰りたくないなぁ……はぁ。しょうがないかー。
それじゃあ、また明日。同じ学校ってだけでわくわくしますね!


***


こんにちは。…………テストがあるなんて聞いてない。
何で教えてくれないんですか、もー。切原くんと一緒に補習決定じゃないですか。
……はい、分かってますよ。次に柳さんは「教えるだけが優しさじゃない」って言うんですよね。知ってまーす。私の中のデータがそう言ってるんです。

もうすぐ新人戦ですね。……もちろん、知ってますよ。
私はテニスは相変わらず見てるだけですけど、ちょっとずつスコアの取り方とか勉強してるんです。マネージャーになる気はないんですけど、ちょっとずつ柳さんが好きなことを知っていきたいなって思って。けど…うーん、難しい。
しかも初戦は青春学園高等部だとか!因縁じゃないですか、燃えますね!

最近ちょっとずつ日も長くなって、暑くなってきて……夏が近いなって思います。ほら、私たちが出会ったのも夏じゃないですか。
忘れられませんよ、あの一週間のことは。……だって、無人島でサバイバルって。実はちょっと――結構全力で楽しんでたんですけど。……あ、知ってましたよね、私が全力ではしゃいでた事。柳さんの事ですから。
……あの時、柳さんに出会えてよかったなって思います。柳さんは優しくて、かっこよくて、いい匂いだし……好きです。大好きなんです。柳さん……ねえ。
あの時の柳さんの手、あったかかったです。大きくて温かくてーー私のちっぽけな悩みとか、悲しいこととか、全部包み込んでくれそうな気がしました。
……柳さん。

――あ。
……あはは、らしくないですよね!昔の事を思い出すと、つい。まだ15なのになー。
もうすぐ柳さん、誕生日ですよね。ちゃーんと覚えてますから。柳さんは私より一つ上だから、次は――、……。
……プレゼント、期待してて下さい。とびっきりの、持ってきますからね!じゃあ、また来ます!


***


こんにちは、柳さん。
誕生日プレゼント、気に入って貰えましたか?

……ね、柳さん。今日は何の日か覚えてますか?
柳さんなら当然覚えてますよね。「次にお前は『今日は私の誕生日なんです』と言う」……ちょっと似てるでしょ。
そう、私の誕生日なんです。私、今年で16なんですよ。……柳さん。私ーー

柳さんと同い年になっちゃいました。

ずっと認めたくなかったんです。一年前のあの日、柳さんが居なくなっちゃったって事。何で何も言わずに居なくなっちゃったんですか?
電話がかかってきた時、それが現実だなんてとても思えませんでした。けど、電話の向こうでお姉さんが泣いてました。……私が着いた時には、もうーーね、柳さんったらせっかちなんだから。ちょっとくらい……待っててくれたって良かったじゃないですか。
最後に握った柳さんの手、冷たかったです。……柳さん、冬になると手が冷たくなりますよね。そういうのとは全然違って……悲しい冷たさでした。もう柳さんがそこにいないって突きつけられるみたいで、けど、私は信じたくなかったんです。

それまで私の近くにあった日常の中で、柳さんの姿を探していました。一緒に行った甘味処や、ショッピングセンターや……学校や、テニスコートや、……この部屋に、柳さんの姿をずっと、ずっと探していました。
見つからない事なんて、最初から分かってたのに……それでもいつか会えるんじゃないかと思って、こうやって柳さんの所に来て。切原くんや、立海の人たちの中に柳さんの面影を見てました。あの人たちの中で、柳さんが生きてる気がしたから。
……ふふ、こうやってちゃんと柳さんの顔を見たの、実は結構久しぶりなんです。柳さんの時間は16歳で止まってるのに、自分の周りだけ時間が過ぎていくのが怖くてーー写真の中の柳さんを、直視することができなかったんです。

柳さん。実は私、すごく後悔してる事があるんです。
……今となっては後悔だらけで、言いたい事も一緒にやりたい事も山ほど残ってるんですけど。えへ。
――ずっと、名前で呼びたかったんです。名前で呼び合うなんて普通の事なんだろうけど……それでも私の中では特別で、照れくさくて呼べなくて。実は幸村さんや真田さんがちょっと羨ましかったりして。
本当は、何度も名前で呼ぼうと思ってました。けど、柳さんは待ってくれなかったから……結局呼べず仕舞で。ねえ。今、呼んでも良いですか?
あなたがここにいるか分からない。声が届いているかも分からない。私には、もうあなたが見えないんです……ね、蓮二さん。
……蓮二さん。えへへ、二回も呼んじゃいました。

……会いたいです。
また手を繋いで欲しいです。褒めて欲しいです。窘めて欲しいです。頭をなでて欲しいです。また……困ったみたいに笑って下さい。ノートで頭を叩かれたっていいです。もっと、名前を呼びたかったです。
私の名前を呼んで下さい。

……あ、はは…泣かないつもりだったのにな。やだなぁ、もう……。
今日来たのは……あなたがもういない事実を認める為だったんです。……あはは、困ってましたよね、蓮二さん。きっとお姉さんやお母さんも困ってたんじゃないかなって思います。
貰ったマフラーも、メールも、写真も……消せそうにないです。――大事なんです。全部、すごく。

ずっと好きでした、蓮二さん。……これからも、ずっと大好きです。こうやって想うくらいは許してくれますよね。
……また来ます。私は絶対にあなたの事を忘れませんから、蓮二さんも私の事、絶対に忘れないで下さいよ!

それじゃあ、次はお盆に会いましょうね!



さよなら、蓮二さん。

柳×彩夏、死ネタ。

2014.12