SUMMERS 1日目 昼

「ならば、解散」

 跡部の号令を合図に、選手たちはそれぞれ思い思いの場所へと散っていった。これからの生活を生き抜くための資源を探す探索だ。時折散聞される世話話のせいか幾分緊張感に欠けるものの、彼らは指示された通りにロッジへ、食堂へ、炊事場へ。はたまた海岸へ、雑木林へ。その瞳は「何か得られないか」と、皆真剣だった。

「さて、どうしようかな」

 キャンプ場に散った選手達の姿を見ながら、彩夏は考えた。跡部には「誰か手伝ってやれ」と言われたものの、子細な指示は受けていない。
 誰でも自由に、好きな人を手伝えって事かな。
 持ち前の決断のはやさでそう解釈した彩夏は、誰かの手助けをすべく足を踏み出した。いつまでも立ち止まってはいられない。

「お客様扱いなんてごめんなんだから」

 自分に言い聞かせるように呟き、彩夏は気合いを入れる様に唇を結んで、己の頬を挟むようにぱんと軽く叩いた。


「そうは言っても……」

 誰を手伝おうかなぁ。キャンプ場にちらほらと見える選手たちは、一足早く散策を始めている。ほぼ初対面の人間の前で、評価は平等だ。物怖じしない性格の彩夏は、見知らぬ人間ながらも生活を共にする事になる誰を手伝おうかときょろきょろと辺りを見回した。

「……どうしようかな」

 不意に、彩夏の耳に声が届いた。自分が今まさに悩んでいる内容と同じ意味あいの言葉に思わず反応してしまう。声の方向を向くと、赤い帽子を目深に被った長髪の少年が居た。

「あの、すみません」
「うわ、びっくりした。……あれ、君って確か船に乗ってた」

 周囲に気をやっていたらしい少年は、彩夏の声に大袈裟に驚いて肩を跳ねさせた。深く下げられた帽子のつばの下から、艶のある髪と同じく黒い瞳を彩夏へと向ける。彩夏はにっこりと笑い、元気よく頷いた。

「はい、辻本彩夏です。よろしくお願いしますね」
「辻本さんか、よろしく。俺は木更津亮、六角中の三年だ」
「木更津さんですね。……それで、さっき言ってた『どうしよう』っていうのは?何か困ってるんですか?」
「ああ、その事か」

 木更津は、帽子のつばを摘まんで帽子を被りなおした。サイドに垂れた黒髪がさらりと揺れる。

「どこを探索しようか迷ってて。ほら、皆色々な所に行っただろ。少し出遅れたから」
「なーんだ、そうなんですか」
「なーんだって何だよ」

 眉を寄せる木更津に、彩夏はどんと己の胸を叩いて見せる。

「私も丁度、どこを探そうか迷ってた所なんですよ。木更津さんが良ければ、私にお手伝いさせて貰えませんか?」
「え?」

 彩夏からの思いもよらない申し出に、木更津は目を丸くした。少々含有された意味合いが違うものの、結果として間違った事は言っていない。丸い瞳を斜め上にある木更津のそれへと向け、彩夏は笑って見せた。
 木更津がふい、と目の前の彩夏から視線を逸らし、顎を引いて目元をつばの影に隠した。

「別に、構わないけど。辻本さんが良いなら」
「ありがとうございます!それじゃあ、早速」
「あ、待って。多分もうそろそろ来るから」
「へ? 来るって何が……」

 聞き返した彩夏にくれるはずだった木更津の目線は、何かに気が付いたように彩夏の肩越し、キャンプ場入口へと向けられていた。それに気付いた彩夏は言葉を切り、つられてそちらを振り向き視線を向ける。
その先には、短い黒髪に赤いハチマキが鮮やかな少年が一人。こちらに気付くと親しげに白い手袋に包まれた手を振り、木更津がそれに返した。
 ルドルフのジャージを身に纏ったその少年は、彩夏たちと向かい合う位置で足を止めて木更津に向けて微笑んだ。しかし、彩夏に興味深げな一瞥をくれるのは忘れない。それと同時に、僅かに警戒と緊張も含んでいるようにも見えた。

「お待たせ、亮。……この子は?」
「そう待ってもないさ、淳。この子は辻本さん。俺達を手伝ってくれるって言うんで、一緒にお前を待ってたんだ」
「そうなんだ。よろしくね、辻本さん……どうしたの?」

 二人の間で順番に二人を見比べる彩夏を心配したように、少年はちょっとだけ眉を下げて屈み込み、彩夏を覗き込んだ。長めの前髪の下から、それ真っ黒な瞳が向けられる。彩夏はその瞳に、その顔立ちに、確かな既視感を覚えていた。

「あ、あの……木更津さんが、二人? ど、ドッペルゲンガー……?」
「……本当に大丈夫?」
「どこをどうしたらそういう結論にぶっ飛ぶんだ……」

 彩夏を挟んで立つ二人はそっくり同じ造りの顔を見合わせて、そっくり同じように肩を竦めた。一方は燃えるように真っ赤な六角中のジャージ、一方は白と茶のコントラストが穏やかなルドルフ学院のジャージ。それでも、その土台が相似しているのだから可能性の一つとして考えるには有りと言えば有りなのかと、木更津が首を傾げた。

「まあ、こんな状況じゃ混乱してるのも仕方ない……のかな?」
「だからってドッペルゲンガーは無いだろ」

 短髪が心配げに眉尻を下げて前髪を弄り、長髪がやれやれと首を振った。
確かに同じ顔が二つあったら面食らいもするだろう。現に一度取り違えられたのだから――二人が吐いた溜息には、突飛な考えに至った彩夏への呆れと好奇心が含まれていた。
 フリーズしている彩夏へ、淳が会釈程度に頭を下げる。

「申し遅れたけど、僕は木更津淳。亮の双子の弟だよ」
「へ?あ、ああ……ですよね、そうですよね!びっくりしたー……私の周りに双子って居ないから驚いちゃって!すみません、えへへ」
「えへへじゃないだろ。……まあいい、早速行くか。ここで突っ立っててサボってると思われたくないからな」

 照れたように笑い、後頭部を掻いて曖昧に誤魔化す彩夏に突っ込みを入れながらも、亮が顔を上げた。同じ顔の――曰く、その双子の弟、淳も同じく顔を上げる。ショートカットの髪が動作に合わせて細やかに揺れた。

「それで、どこに行くのさ。結構皆、色々な所に行ってるみたいだけど」
「そうですね、皆さん行動が早かったですから」

 疑問符を浮かべる二人に向け、亮は正面を指差してみせた。その先にあるのは、他のロッジとは造りの違う、一回り小さな木造の建物だ。

「あれって確か……物置ですか?」
「ああ。いかにも何かありそうじゃないか? 誰かが調べた様子もないし」
「うん、いいんじゃないかな。行こうか」

 クスクス。特徴的な含み笑いを残して、淳が歩き出した。亮もそれとほぼ同じくして足を踏み出し、それに彩夏が続く。ほどなくして辿り着いたそこは、遠目で見るよりも大分古びて見えた。

「よーし、早速何か役に立つものが無いか探しましょう……あれっ?」

 彩夏が勇んで物置の戸を開けようとするが、戸はがたりと揺れただけでびくともしない。「俺達がやるから」と言われて、彩夏は「はい」と返事をして大人しく引き下がった。

「よいしょ……っと。すごい荷物だな」
「それっ。……うわあ、埃っぽいや」

 男二人がかりの力で、戸が開かれた。立てつけが悪いと思っていたのはノブが錆び付いていたからで、暫く使っていなさそうなそこは埃が降り積もっていた。

「最近誰かが使った形跡はありませんね」
「うん。こんなに埃が積もってる」

 淳が手袋から伸びた人差し指で、雑多に積まれた段ボールの一つをなぞる。くっきりと軌跡を残すそれを見下ろしながら、淳は指先の埃を擦り落とした。

「……ガラクタばっかりだな」

 期待外れと言わんばかりに声を上げるのは亮だ。「木更津さん、何が見つかったんですか?」と彩夏が尋ねると、亮は壊れたシュノーケルを段ボールの中から引っ張り出した。

「見事に壊れてますね……」
「これは使えそうにないな。ゴムの隙間から水が入って来る」
「じゃあ、そっちのゴーグルは?」

 淳が亮の肩越しに段ボールを覗き込みながら指差す。仲良さそうだな、と思いつつその様子を横目に、彩夏は檸檬色のパーカーの袖まくりをして段ボールの山に臨んだ。
 まずは一つ、埃っぽい本棚の前に積まれた段ボールを開く。錆だらけの飯盒がごろごろと無造作に入っており、一応調子を見てみるも底が抜けているものばかりだった。残念そうに眉を下げ溜息を零すが、彩夏は持ち前の切り替えの速さで次の段ボールに取り掛かった。
 そのダンボールは、他に比べて新しかった。まだガムテープの封すら切っていなかったからだ。期待を胸にそれを破き開封した彩夏の目に飛び込んできたのは、少々の経年を感じるとはいえ、真新しい食器類の数々だった。

「あっ!木更津さん、木更津さん!見てください!」
「何だ、何を見付けたんだ……お、食器か。まだ新しいな」
「束ねられてるし、使われた形跡はないね。プラスチック製か……使い勝手も良さそうだ」

 嬉々とした彩夏の肩越しに、右から亮、左から淳が覗き込んでそれぞれが内容を確認する。プラスチック特有のてかりを返す食器類は、物資に乏しいこの島の中ではまるで銀の輝きにも見えた。

「辻本さん、お手柄だな。数も多分全員分はあるし、割れる心配も無い」

 箱の脇にしゃがみ込んだ亮が食器を軽く叩き、彩夏に微笑みかける。クスクス。先程も聞こえた特徴的な含み笑いが、今は何となく褒めているように彩夏には感じられた。

「それじゃあ、これを運ぼうか。辻本さん、扉を開けてくれるか?」
「はい、了解です!」

 びしりと額に手をやり、敬礼のようなポーズを取って彩夏は立ち上がった。そのまま扉へ向かって小走りに進む。途中がらくたに気躓いて「わわっ」と小さく声を上げたが、大事には至らず姿勢を立て直し、「大丈夫か」と呼びかけた亮に照れ笑いを返した。

「亮、辻本さん。こっちには使ってないフォークとスプーンがあるよ。これも持って帰ろう」
「了解、淳。ひとりで持てそうか?」
「うん、何とか大丈夫。亮こそ大丈夫?」
「ああ、プラスチックだから軽いもんだよ」

 ひとかかえもある段ボールを抱えて、双子がそれぞれ立ちあがる。髪型やたたずまいから他の選手よりも比較的華奢な印象を与える二人だが、やはり男子とあって力仕事はお手の物らしかった。

「大丈夫ですか?もしも危なかったら言って下さいね、バシッと手伝いますから」
「ありがと、辻本さん」

 クスクス。扉を支える彩夏の耳に、二人の声がそっくり重なって聞こえた。


 三人が戻ると、他の選手たちも探索を終えて集まりつつある所だった。有用なものを見付けた満足感から彩夏は揚々と歩を進め、探索を共にした双子と少々打ち解けた会話を楽しんでいた。
 今に炊事場に差し掛かろうというその時、横っ面から声が掛かる。聞いた事のある声だ。――ピンチの時に助けてくれたような。振り返った彩夏の視界には思った通り、見覚えのある二人と、それと同じ衣装を纏った長身の彫りが深い選手と、大きな鼻が特徴的な選手が居た。

「やあ、亮、淳。それに、君は辻本さんだね。何が見つかったんだい?」
「何だそりゃあ、お前らそろってすげぇ荷物だな!」
「凄いのねー。お手柄なのね、三人とも」
「荷物を抱えて、重い思いをする……プッ」

 赤いジャージ。亮と同じ、六角中学校の面々だ。最後に放たれたダジャレにどう反応すべきか首を捻ろうとした彩夏だが、

「この野郎、ダビデ!つまんねーんだよ!」

 一瞬の隙も無く、まさに阿吽の呼吸で隣から激しい蹴りが叩き込まれた。ツッコミの主は、広がった黒髪、おおらかさを絵に描いたような顔立ちをした選手――黒羽春風。激しいツッコミに対し「どわああ!」と悲鳴を上げる声は、どこか嬉しげだ。ダジャレの主、「ダビデ」こと天根ヒカルは、勢いのまま地面に倒れ伏した。赤い髪は猛獣のような勇猛さ、彫りの深い顔立ちはどこか外国人風でまさに「ダビデ」という名が相応しい風体をしている。
 目を白黒させる彩夏に、爽やかな笑顔でフォローが入った。

「俺達にとってはいつも通りなんだ。気にしないで」
「ええと、あなたは確か……」
「六角中3年、佐伯虎次郎。よろしくね、辻本、彩夏さんだったかな」

 淡い色の髪の下、浮かんだ微笑みはまさに「爽やか」と形容するのが相応しい清涼感に満ちていた。すっと通った鼻筋、今は細められた優しげな眼、りりしい眉。場所が場所ならば女の子には事欠かないであろう整った顔立ちだ。しかも、嫌味がまるでない。
 思わずまじまじと眺めてしまった彩夏だが、「どうかした?」と尋ねられると慌てて首を振った。

「くすくす……皆変わらないね、亮」
「そうだろ、1年経ってもこんなもんさ」

 耳に届いた会話に、彩夏は振り返った。
 1年経っても?亮は六角のジャージを着ているので知り合いなのは明白だが、淳はルドルフのジャージを着ている。それでも六角の面々と知り合いだという事は、つまり――。

「あの、お二人は……」
「あ!居た!サエさーん、バネさーん!樹っちゃーん!」

 彩夏の疑問は、威勢の良い声にかき消された。高めの、幼さを残した声。浜から大きく手を振りながら掛けて来るのは、綺麗に刈り込まれた坊主頭の選手だった。

「剣太郎、遅かったじゃないか。何か見つけたのかい?」
「それが聞いてよ……うわ、誰この子!可愛いなあ!こんな可愛い子が居るなんて、何で教えてくれなかったんだよー!」

 ばたばたと落ち着きなく走ってきた坊主頭――葵剣太郎は、目を輝かせながらこれまた大音声で佐伯に不満を訴えた。

「あはは、可愛いなんて。褒めても何も出ないよ!」
「お世辞なんかじゃないですよ!あ、僕葵剣太郎って言います。六角中1年!よろしく!」

 満面の笑みで頭を下げる葵は、言われれば後輩らしい振る舞いをしていた。中途半端な敬語も愛嬌だと思える程度の危なっかしさとなつっこさが備わっている。「私は二年の辻本彩夏、よろしくね」と何度目かとなる自己紹介を終えた時、ぱんぱんとやり遂げたように手を払って黒羽が彩夏に笑みを向けた。先程の苛烈なツッコミからは想像もつかない大らかな笑みだ。

「お、そういや名乗るの忘れてたな。俺は六角中三年、黒羽春風。よろしく頼むぜ」
「俺も六角中三年、樹希彦です。よろしくなのね、辻本さん」

 のんびりとした口調に、平和を好みそうなおっとりした顔立ち。下がり気味の眉は控えめながらも心優しさを主張している。樹希彦は大きな鼻から蒸気機関車のように息を吹き出して、これまたのんびりとした笑顔を浮かべた。続けて天根が、涼しい表情のまま口を開く。

「六角中二年、天根ヒカル。得意技はスマッシュ、よろしくお願いしまっしゅ……ぷっ」
「テメー苦しいんだよ、ダビデ!」

 間髪なく突っ込まれ、天根はまたもや嬉しげに吹っ飛んだ。「バネさん勘弁!」などと言っている割には懲りないものである。

「あはは……ていうか、ダビデくんって同い年なんだ。年上だと思ってた」
「年上に間違えられるなんて、何の為のタメなんだ……ぷっ」

 黒羽が叫んでいた名が印象深くつい呼んでしまったが、天根は地面に這いつくばりながらも動じることなく反応を示した。瞬間、彩夏は決心する。よし、これからもダビデくんって呼ぼう。その後、咆哮。

「ダビデーッ!」

 起き上がりつつあった天根の背をげしげしと蹴る黒羽に、心配になった彩夏が木更津へと尋ねかける。

「あの、大丈夫なんですか?ダビデくん……」
「大丈夫大丈夫、日常風景だから」
「逆に突っ込まれないと拗ねるから、ダビデ」
「へ?そうなんですか」

 ちらと様子を窺えば、確かに天根は蹴られているわりにけろっとしているように見える。黒羽が加減しているのか、天根が慣れているのか――いずれにせよ、二人の間に強い信頼関係があるからこそのツッコミなんだろうなと彩夏は思った。

「……とにかく、荷物を置きに行こうか」
「うん。もう皆結構集まってるみたいだしね」
「あ、はい!そうですね、行きましょうか。」

 歩き出す木更津達と一緒に、彩夏も歩き出した。他六角の面々もつられたように言い争いという名の漫才をやめ、徐々に人が集まりつつあるキャンプ場の中心地――炊事場へと向かって行った。



 全員集まったのを確認して、跡部が成果を報告していった。最初に「やはり比嘉中の奴らはいねぇのか」とため息を吐いたものの、進行は滞りない。
 水具、食糧、調理器具――様々な物資が読み上げられて行く。その中には、彩夏と木更津が見つけた食器類も含まれていた。

「成果は以上だ。これからはスケジュールに従って行動してもらう。……そのスケジュールだが」
「んふ、僕がお手伝いしましょう。得意分野ですから」

 真っ先に手を挙げたのは、淳と同じルドルフのジャージを身に纏った癖毛の選手だった。毛先がウェーブした毛束を人差し指の先でくるくると弄んでいる――どこか女性的な振る舞いが特徴的なルドルフマネージャー、観月はじめは自信ありげに含み笑いを零した。
 跡部が頷き、声を張り上げる。

「……観月か、助かる。ならば、俺と観月で後日のスケジューリングをする。明日朝のミーティングで通達する、絶対遅刻するんじゃねぇぞ。分かったな、お前ら」

 皆が異口同音に返事をし、その日のミーティングは解散となった。一部「もちろん柳沢、あなたも手伝いますよね」「何で俺だけ!酷いだーね!あんまりだーね!」という文句も聞こえた気もしたが――。
「SOSを作ろう」「環境を整えよう」「コートを作ろう」「当番を決めよう」口々に言いながら散り散りになっていく選手達にならって彩夏もその場を後にしようとする。その時、ゆらりと芥子色のジャージが視界の端ではためくのが見えた。次いで聞こえた声に、彩夏は足を止める。
 ぴんと張った糸をなぞるような、靜かでどこか鋭利さを感じる声だ。

「跡部、いいかい」
「……アーン?何だ、お前か。どうした」

 マントのようにジャージの上着を羽織り、威風堂々と構える選手が跡部と相対している。高圧的な跡部に全く引かない彼――「神の子」幸村精市は、厳しい面持ちで口を開いた。

「比嘉中の事なんだが……彼らは、あまり長い時間放置しない方が良い。それが俺達の為でもあり、彼らの為だと思う」
「……奴らか。あれほど非協力的な奴らを説得するには骨が折れるだろうな」
「それでも……跡部、俺の言いたい事は解っているんだろう」
「当然だ。俺様を誰だと思ってやがる。テメーの考えなんざ丸見えなんだよ」

 今回のミーティングには、やはり比嘉中の姿は無かった。跡部やその他の選手と同様、幸村も懸念していたのだ。その後幸村に対し「一先ず検討しておく」と言っていたものの、やはり跡部が比嘉中に対して良い顔をしていなかったのを彩夏は見逃さなかった。

 皆が解散した後、彩夏は先程の例にと双子の元へと戻った。そこには、炊事場の柱に寄りかかりながら言葉を交わす二人の姿があった。

「沖縄の比嘉中、か。厄介なやつらだな」
「けど、僕らじゃどうにも出来ないさ。あれだけ言い争いをしたんだから」
「木更津さん達も気になるんですか?」
「うわっ、辻本さん!?」「わあ、びっくりした」

 反応も似たものだ。一斉にこっちを向く同じ色の四つの瞳に対し、彩夏はまっすぐに見返した。
 亮と淳は顔を見合わせた後、同じように眉尻を下げて見せる。

「……そりゃあもちろん気になるけど」
「向こうも頑ななんだ。僕らの言い分が通用するとは思えないよ」
「だけど!このままじゃ、皆の不和は解消されないままなんですよ」

 強い主張をする彩夏に、亮は困ったように帽子を被り直し、淳は前髪を弄った。

「じゃあさ。辻本さんには何か策はあるのか?」

 逆に尋ねられ、彩夏はうぐっと言葉に詰まった。つまるところ、子細な対策は考えていなかったのである。だが、今さらそんな事をいう事にもいかず、勢いのままに拳を握った。

「も、もちろんです!」
「……どんな?」
「直接殴り込みをかけて、お話しします!」

 胸を張って言う彩夏に、双子はしばしフリーズした。

「本気で言ってるのか?辻本さん」「本気で言ってるの?辻本さん」
「本気の本気です!人間話せば分かります。あの人たちも、きっと悪い人じゃないはず……」
「やめときなって」

 意気込む彩夏に静止の声をかけたのは、淳だった。元々表情の乏しいポーカーフェイスの中に、心配と不安を浮かべている――気がする。

「あいつらが素直に話を聞くかなんてわからないじゃないか。門前払いされるかも――」
「でも、それでも……何もしないよりはマシじゃないですか」
「……よし、分かった」

 暫しの間の後、手を打ったのは亮だった。

「辻本さんが行くっていうなら、俺も行く。女の子一人で放り出すわけには行かないからな」
「! ありがとうございます!」

 彩夏はぱっと顔を明るくさせ、亮に向き直った。ややあって、淳も一つ頷く。

「分かった。じゃあ、僕も行く。向こうは三人だ、人数は多い方がいいでしょ」
「木更津さん……」

 衣服を軽くはたいて、淳が薄く口元に笑みを浮かべる。

「それに、辻本さんの事何だか放っておけないし」
「ああ、分かる。すぐ怪我しそうだよな」
「ど、どういう意味ですか!」

 むっと頬を膨らせる彩夏を尻目に、双子はクスクスと笑った。一頻り笑った後、双子と彩夏は向き直る。

「決行は夕食後の自由時間。集合はさっきの物置でいいか?」
「僕は大丈夫。辻本さんは?」
「はい、了解です。……あ、私夕食の準備に行かないと!」

 跡部が近づいてくるのを視界の端に認め、彩夏はわざとらしく声を上げて踵を返した。ひらりと手を振って、野菜を洗っている丸井のもとへと掛けていく。

「それじゃあ、またあとで」
 二つの声が重なって、一つの言葉に聞こえた。

もしも木更津兄弟がサバイバルに参加していたら。
ついでに樹っちゃん、壇くん、知念その他メンバーも参加しています。

2014.12