Re dead

 目を覚まして一番に目に飛び込んできたのは、真っ白な世界だった。いや、これは天井か──なかなかどうして、視界が悪い。無意識のうちに手探りで眼鏡を探し──そして、ハッとした。

 ここは、どこだ?

 手に触れる感触は柔らかく、自分がベッドに横たわっているのだと知る。手首にはチューブ。そして、薬のにおいが鼻につく。そうか、ここは病院か。
 どうして自分がここにいるのか理解できなかった。目覚めたばかりだからか、意識がぼうっとしてよくものが考えられない。確か、オレは──。

 記憶の糸を手繰るまでもなかった。自分の身に降り掛かったすべての出来事が、猛烈な勢いでフラッシュバックする。
 思わず跳ね起きようとするが、身体中に酷い痛みが走って思わず呻き声を漏らした。特に痛むのは喉元だ。そっと手で触れると、糸で縫合してあるようだった。

「……やっと起きたか、ギアッチョよォ」

 不意に、聞き覚えのある声が耳に届く。ぼやけた世界の中視線を巡らせ、その姿を捉えた。青と赤のコントラスト。よく見覚えがある──こいつは敵だ。自然と眉根に不機嫌な皺が寄る。この声は、あの新入り『ジョルノ・ジョバァーナ』と並んで一番聞きたくない声だった。

「ホワイト・アルバムッ!」

 痛みなどどうでもいい。飛び起き、声の限りに叫ぶとスタンドを敵へと差し向けた。部屋の気温が一気に下がる。叫んだ拍子に傷が開いたのか、酷く痛む喉奥から鉄のにおいがした。
 ──このまま、ヤツをブチ割ってやる!
 スタンドの力を強める。だが、何故か気温は下がらない。
 まさかだろ……戸惑っていると、こめかみに冷たく硬いものが押し当てられた。見なくてもわかる──ヤツ、『グイード・ミスタ』の銃口だ。

「無駄だぜ。お前のスタンドパワーは戻ってねえからな……死にかけた上、1週間眠ってたんだ。……おっと、妙な動きをしたら、オレは躊躇いなく引き金を引くぜ。せっかく助かったのに死にたくねーだろォ〜? 無力な『ギアッチョくん』よ」
『ミスタァーッ、ナンデ助ケチマッタンダヨォー』
「知らねえよ。オレは殺してもいいと思ったが……ジョルノに言え。全く甘ちゃんだよなァ〜……」
「……1週間……?」

 思わず復唱すると、ミスタは頷いた。

「1週間だ。オレとお前が戦ってからな。ボスは倒した。お前らのリーダーも死んだ。パッショーネは生まれ変わったんだぜ」
「……。……クソッ!」

 話が飛躍し過ぎて理解が追い付かない。口から零れたのは、口癖のようになっていた悪態だった。口端から血が滴るが、気にならない。
 頭に一気に血が昇るのを感じる。力任せに腕の点滴のチューブを引き抜くと、そのまま拳を返してミスタの腹にたたき込んだ。

「うげッ……!?」
『ウワァァーッ! ミスターッ!』
「……認め……ねぇぞ……」

 くらくらする。ケガだけのせいじゃあないだろう。怒り、苛立ち、混乱。うずくまるミスタを睨み付け、力の限りに叫んだ。

「オレは認めねえッ! リーダーが死んだだァ? あの人の『能力』がそう簡単に負けるもんかっつーんだよォ〜〜ッ!! フザけんな、クソッタレがッ! 言うに事欠いて『生まれ変わった』だァ〜? このオレをコケにしやがって……デタラメ言ってんじゃあねえぞ、グイード・ミスタッ!」

 真っ白なリネンに赤い染みが浮き上がる。それでもギアッチョは、決して認めなかった。──いや、認めたくなかったのだ。
 殊勝な怒鳴り声は、悲痛さすらも感じる響きを帯びて病室内を満たした。傷口が開こうが、血が流れようが、獰猛な獣のような光を宿した瞳は、揺らがずミスタを映していた。

もしもギアッチョが生き残っていたら。以下続く?
2010.4